深夜、ダッカ国際空港に降り立った瞬間、まず全身を包み込んだのは湿り気を帯びた熱気だった。
そして、深夜とは思えないほどの人、人、人。
観光客ではない。その大半は、中東や東南アジアからの出稼ぎ労働者(migrant workers)たちだ。
彼らが持ち帰る外貨送金こそが、長らくこの国の経済を支えてきた太い柱の一つだ。
巨大な荷物を抱え、家族のもとへ急ぐ彼らのエネルギーが、空港全体を振動させているようにさえ感じる。
1. 渡航の不安:この飛行機、本当に飛ぶのか……

そもそもの始まりは、バンコクからの乗り継ぎ便だった。
機材は古く、モニターの地図は粗いドットで描かれている。
「この飛行機、本当に飛ぶのか……」
そんな一抹の不安を抱えながらのフライトだったが、無事にダッカの地に降り立つことができた。
2. 到着のカオス:アナログな入国審査
入国審査(Immigration)のエリアに足を踏み入れると、そこには「整列」という概念が希薄な、人の塊があった。

デジタル化されたスマートゲートなど存在しない。
紙の入国カードを記入し、係官が目視で確認し、スタンプを押す。
列は遅々として進まず、横から割り込む人もいれば、大声で係官と交渉する人もいる。
まさに「カオス」だ。
入国審査のそこかしこで揉め事が起きている。
「彼は宗教的に高貴な身分なのだから、先に通して当然だ」といった剣幕で係官に詰め寄る騒ぎがあった。
英語など通じない。それぞれの論理と感情がぶつかり合う、剥き出しの人間ドラマが展開されていた。
一方で、ほっこりする場面もあった。
子供連れの家族がいると、周囲の人々が「子供が先だ!」と声を上げ、最優先で順番を譲るのだ。
我先にと争う中でも、弱者への優しさが自然と発揮される。この混沌とした優しさもまた、バングラデシュという国の側面なのだろう。
3. その中の異様なスムーズさ:BRAC EPLの誘導
しかし、このカオスな異国の地であっても、身の危険は感じなかったし、むしろ安心している節さえあった。
事前に連絡を取っていた現地の証券会社、BRAC EPLのスタッフによるフォローがあったからだ。

彼らはこの混沌とした人混みの中から私を瞬時に見つけ出し、迷路のような空港内を最短ルートで誘導してくれた。
わたしを含む日本からの投資家で、ファーストクラス専用のレーンを独占的に通過させてもらった。
入国カードなどの書類も全てスタッフが代筆。私はただ、示された場所にサインをするだけだ。
無口で無表情な入国審査官と、満面の笑みで迎えてくれる証券会社の担当者。
そのコントラストが印象的だった。
「業務では無口でも、本音はこっち(歓迎)なんだな」
そう思わせる国全体の温かさを感じた気がしたのだ。
国賓、というほどではないけれども。
ふと、あれは単なる業務を超えた「好待遇」だったのではないか、と思えてくる。
深夜の到着にもかかわらず、そこには確かな熱量と歓迎の意思があった。
この国でビジネスを動かすために必要なのは、システムと、こうした「人」の温度感なのかもしれない。
4. 空港の外へ:警護付きの移動

空港ビルの外に出た瞬間、そこにはテレビカメラの砲列があった。
誰か著名人の到着を待っているのだろうか。フラッシュが焚かれる中を通り過ぎ、送迎車へと向かう。

我々の車の前には、警棒(誘導灯)を振るセキュリティサービスの車両がついた。
彼らが先導してくれなければ、この混沌とした道路を一歩も動くことはできなかっただろう。
車窓から見える警護の背中を見ながら、この国における「安全」と「移動」がいかにコストのかかるリソースであるかを痛感した。
結論:整っていないからこそ、面白い
空港を出る頃には、シャツは汗で張り付いていた。
ここには、先進国のような快適さも、予測可能性もない。
しかし、投資家として感じたのは不安ではなく、高揚感だ。
全てが整ってしまった国に、これほどの熱量は存在しない。
不完全で、非効率で、カオスに満ちている。だからこそ、ここには「良くなる余地」という莫大なアップサイドが眠っている。
整ってから投資するのではない。
整っていく過程こそが、我々の収益機会なのだ。


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