東京ではない、雑多な世界。
だからこそ、ここに投資の妙味がある。
経済統計や財務諸表は重要だ。しかし、新興国投資において、数字はしばしば現実の後追いでしかない。
本当の成長の予兆は、まだ数字になっていない「街の地肌」にある。
今回は、ダッカ現地視察で目にした事実から、この国の投資機会とリスクを読み解くデューデリジェンス・レポートをお届けする。
1. ダッカ:雑然とした都市のエネルギー
ホテルの窓からダッカ市内を見渡す。眼下に広がるのは、中層のコンクリートビルが隙間なく密集する雑然とした風景だ。
洗練された高層ビル群とは程遠いが、あちこちに見える建設中の鉄骨と、屋上に設置された太陽光パネルが、この都市の現在地を物語っている。
現地証券の担当者に話を聞くと、「停電が頻発するため、富裕層や商業ビルは自衛策として非常用電源やソーラーパネルを導入している」という。

ここから読み取れるのは二つの側面だ。
- リスク:電力インフラの脆弱性が経済活動のボトルネックになっている現実。
- 機会:グリッド(送電網)に頼らない分散型電源市場の巨大な潜在需要。
インフラの未整備は、裏を返せば「解決策」を提供する企業への投資機会でもある。
Sheraton Report
高級ホテルの窓から見下ろす「未開発」と「可能性」。
一歩外に出れば広がるカオスと、厳重なセキュリティに守られた聖域のコントラストはこちら。

2. 道路事情:混沌と秩序の狭間
午前10時過ぎ、Sheraton Dhakaを出発。市内の道路事情は、一言で言えば「混沌」だ。
信号機はあるが、ほとんど機能していない。交差点の信号は点灯していないことが多く、交通整理は警察官の手信号か、あるいはドライバー同士の阿吽の呼吸に委ねられている。

慢性的かつ激しい渋滞。しかし、有料の高架道路(Expressway)に入った瞬間、景色は一変した。流れはスムーズになり、近代都市の様相を呈する。
この極端なコントラストは、公共インフラ投資の遅れと、今後の成長余地を如実に物語っている。
物流効率の低さは現状の課題だが、インフラ整備が進めば、経済効率は飛躍的に向上するポテンシャルを秘めている。
3. 車両構成から読む経済階層
道路を走る車両を観察すると、この国の消費構造が見えてくる。
- 乗用車:圧倒的に日本車(トヨタ)が多い。中古車輸入がメインだが、耐久消費財への購買力を持つ層が確実に存在している。
- バイク:インド製(TVSなど)が目立つ。手頃な価格帯のインド製品が、中間層の移動手段として浸透している。
- 移動用の観光バス:窓ガラスが割れ、車体はボコボコだ。それでも現役で走っているという事実には、ある種のカルチャーショックを受けた。
ここで注目すべきは、日本車が選ばれる理由だ。
「壊れないから」――この一点に尽きるらしい。
現地でBYD(中国製EV)の話を聞いたが、「よく壊れるから買えない」との声もあった。インフラが整っていない環境下では、ブランドイメージよりも「生存信頼性」こそが最強の価値となる。

一方で、ホンダのバイクも頑張っていると信じたい。
4. 消費の現場:BRAC Aarong
富裕層向けの商業施設「BRAC Aarong」を訪れた。
店内には洗練されたアパレル(RMG:Ready-Made Garments)、宝飾品、工芸品が並ぶ。

ここは市中の雑踏とは完全に「別世界」だ。
買い物を楽しんでいるのは、この国の上位5%に限られた富裕層たちだろう。
「中間層が育っている」と安易に断言できるかは疑問が残る。
陳列されている衣服類は高級路線のブランドで、縫製はヨレなどもなく非常に丁寧だ。
日本でも通用するというより、まさに我々が知る高級ブランドが、ここを信頼できる下請け工場として選んでいる理由がわかる品質だった。
Inside Aarong
ダッカの喧騒とは対照的な「静寂」と「秩序」。
BRACが運営するこの店舗で感じた、バングラデシュの未来への一縷の光についてはこちら。

投資家としての総括
今回の視察で確認できたのは、以下の3点だ。
- インフラの逼迫:電力・交通の未整備はリスクだが、改善余地こそが成長の源泉。
- 消費の胎動:一部の富裕層だけでなく、中間層が育ちつつある。
- 政治的レジリエンス:混乱を乗り越え、日常を回す社会の強さ。
完成された先進国に投資しても、得られるのは「安定した低成長」だけだ。
一方で、ここには「不完全さ」ゆえの歪みと、それを埋めるためのエネルギーが満ちている。
「新興国投資とは、未完成な構造を保有することだ。」
道路が整備され、停電がなくなり、政治が安定した時、株価はすでに今の何倍にもなっているだろう。
欠落の中にこそ、未来の利益が眠っている。
Arrival Report
空港に降り立った瞬間の「熱気」と「混沌」。
入国審査の行列や、空港職員とのやり取りなど、到着時のリアルな記録はこちら。



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