ホルムズ海峡封鎖でも原油は止まらない|スエズマックスという知識の武器

ルムズ海峡が封鎖されれば、中東石油の輸送方法はなくなる」という結論に至りそうな報道が多い。

こういう極端な報道をみていると、投資妙味があるように思ってしまう。

今回は、この地政学的構造と海運市況の交差点から、どんな株が有望かを考える。結論から言えば、スエズマックスを保有する会社だ。

1. ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河

地図からわかる通り、ホルムズ海峡が封鎖されることで輸送ルートが断たれる。イエメンがイランの傀儡国家であることを考えると、バブ・エル・マンデブ海峡が封鎖される可能性は十分にある。

ここが閉鎖された場合、通常ルート(ペルシャ湾→ホルムズ→アラビア海→バブ→紅海→スエズ)は全体として遮断される。その意味でEIAが説明する通り、「バブ封鎖=中東から欧州への幹線ルートが止まる」は概ね正しい。

ただし、バブが塞ぐのは紅海の南側の出口だけだ。紅海を北から使う、つまりヤンブーのような紅海岸の港から北上してスエズへ抜けるルートは、バブ封鎖と直接の関係はない。この非対称性が、今回の投資仮説の核心だ。

  • 封鎖されるもの:ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡(紅海南口)
  • 封鎖されないもの:ヤンブー発→紅海北上→スエズ経由→地中海・欧州ルート

2. タンカーサイズと三つの海峡・運河

タンカーを語るとき、最初に理解しなければならないのはサイズによる制約だ。タンカーはサイズによって通れる航路が異なる。

主要タンカークラスの仕様比較

クラス名積載量(DWT)全長船幅喫水(満載)ホルムズバブ・エル・マンデブスエズ運河
アフラマックス
Aframax
8〜12万DWT〜245m〜44m〜14.8m通航可通航可通航可
スエズマックス
Suezmax
12〜20万DWT〜275m〜50m〜20.1m通航可通航可✅ 通航可(上限)
VLCC
Very Large Crude Carrier
20〜32万DWT〜333m〜60m〜20.5m通航可(空船時)通航可❌ 通航不可
ULCC
Ultra Large Crude Carrier
32万DWT超〜380m超〜68m〜24m超❌ 通航不可(満載)通航可❌ 通航不可

※ ホルムズ海峡の最大水深は約85m、最狭部は約54km。VLCCは満載時でも水深上は通航可能だが、封鎖・危険水域指定によって保険が降りず、実質通航不可の状態になっている(CNBC, 2026年3月)。

※ スエズ運河の通航制限:幅最大50m(喫水20.1m時)、喫水上高さ68m、断面積1,006㎡以内(2010年〜)。

この表を見ると、何が起きているかが分かる。ホルムズ封鎖でVLCCが実質的に使えなくなり、バブ封鎖でペルシャ湾→紅海→スエズという通常ルートが遮断された状況で、ヤンブーから欧州へ向かう際に「スエズを満載で通過できる」唯一の船型がスエズマックスだ。アフラマックスでも物理的には通れるが、積載量が小さい分、同じ量を運ぶのに多くの航海が必要になる。

3. スエズ運河の通航制限とは何か

スエズ運河には閘門(ロック)がない。制約は幅・喫水・船底からの高さ・断面積の四つだ。喫水20.1m・船幅50m・高さ68mが事実上の上限となっている(Wikipedia「Suezmax」より)。

VLCCは喫水や幅がこれを超えるため、積み荷を全量積んだ状態ではスエズを通れない。部分的に荷を下ろして通過するか、喜望峰を迂回するしかない。
「スエズマックス」という名前はそこから来ている。スエズ運河を満載で通航できる、最大の船型という意味だ。

スエズ運河を満載で通航できるか(最大積載量比較)

クラス最大積載量スエズ満載通過
アフラマックス最大 12万DWT✅ 可能
スエズマックス ★最大 20万DWT(スエズ上限)✅ 可能(上限値)
VLCC20〜32万DWT❌ 不可

大量に積んで、スエズを抜けて、欧州へ届ける。そのルートを一度の航海で完結させられるのは、スエズマックスだけだ。

4. サウジのヤンブー ― すでに動いている代替ルート

「理論はわかった。でも実際に動いているのか」という疑問は正しい。これは理屈の話だけではない。

2026年3月、サウジアラムコは東西パイプライン(East-West
Pipeline)をフル稼働させた。このパイプラインは、サウジ東部のアブカイクから砂漠を横断し、紅海岸のヤンブー港へ原油を送る。アラムコCEOのアミン・ナセル氏は2026年3月初頭に「数日以内に日量700万バレルに達する」と確認した。

「サウジアラビアが紅海側のヤンブーへの輸出を大幅に増やし、かなりの量を紅海側から積み出している」

— Reuters, 2026年3月

LLOYDのデータによれば、2026年1月のヤンブーからの積出量は日量130万バレル程度だったが、3月には590万バレル近くに達した。ヤンブーはバブ・エル・マンデブより北にある。ここから北上すればバブを通らずにスエズへ向かえる。その積み荷を運ぶ船として、スエズマックスが実際に使われている。

5. 投資家としての視点

スエズマックスを主力とする上場企業として主に以下が挙げられる。

Nordic AmericanTankers(NAT・NYSE)は約23隻のスエズマックスで構成されるピュアプレイの会社だ。2026年Q1時点でスポット運賃を1日あたり約55,000ドルで確保し、株価は年初来63%超の上昇を記録している。

  • 楽観的視点:ヤンブーからの輸出増加とバブ封鎖の継続が重なれば、スエズマックスのスポット運賃と稼働率は高水準を維持する。スエズを満載通過できる唯一の大型船型という構造的優位は変わらない。
  • 悲観的視点:バブ封鎖が解除されれば、ルートの歪みが消えて運賃は急落する可能性がある。ホルムズ危機が深刻化してペルシャ湾からの輸出自体が止まれば、積み荷が存在しなくなる。

シナリオの前提が崩れれば、相場は逆に動く。ただ、この仮説は空気感ではなく、地図の構造と実際の物量データに立脚している。

6. 結論:封鎖が「機会」になる船型

スエズへ抜けるルートに妙味があるように思われる。

  • サウジの東西パイプラインは2026年3月時点で日量700万バレル規模まで稼働を拡大した
  • ヤンブー発・スエズ経由・地中海着のルートは、バブ封鎖下でも成立する
  • スエズ運河を満載通過できる最大船型がスエズマックスであり、このルートに構造的に適合する

地政学そのものは、株式への影響はほとんどないと感じている。
しかし、今回の騒ぎは、地政学が100%のように思われてならない。地図を読む目があれば、投資の補助線になる。このあたりの海運市況と地政学リスクの交差点は、引き続き観察していくつもりだ。

【注意】

本記事は投資情報の提供を目的とした考察であり、特定銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任のもと、最新情報を確認のうえ行ってほしい。

SHARE
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

comment

コメントする