カントリー・リスクとは、投資先の国そのものに起因して株式や債券のリターンが毀損するリスクの総称です。 政治・通貨・資本規制・制度法・地政学の5つに分類でき、ソブリン格付けやスプレッドで数値化されます。新興国投資の前提として、銘柄分散だけでは逃げられない構造リスクとして最初に押さえておきたいです。
アメリカ株と同じ感覚で新興国株を買うと、業績も決算も特に悪くないのに株価だけが妙に動いて戸惑うことがあります。その戸惑いの多くは、企業ではなく「国そのもの」に由来しています。
本稿ではまず定義を整理し直し、5つの主要な分類、数字での測り方、株式リターンへの波及、そして個人でも取れる備えの順で見ていきます。
カントリー・リスクとは
カントリー・リスクとは、投資先の「国」に起因して投資リターンが毀損するリスクの総称です。特定企業の信用力や業績ではなく、国全体のマクロ経済・政治・法制度・通貨・国際関係に由来します。
IMF などが使う狭義の定義は「ソブリン・リスク(政府自体が債務を返せなくなるリスク)」に絞られているが、実務の世界ではもう少し広く、規制変更・通貨急落・資本送金停止・地政学的な混乱なども含めて扱うのが一般的です。国の信用力が揺らぐと、その国に本社を置く企業の株式や債券にまで一律に影響が及びます。銘柄分散だけでは逃げられない、という点がこのリスクの厄介なところです。
5つの分類
カントリー・リスクは、発生源ごとに5つに整理するとわかりやすいです。
政治リスク
政権交代、国有化、資産没収、税制の突然の変更などによって、投資家の権利が毀損するリスクです。2007年のベネズエラによる石油事業の国有化、2022年のロシアによる海外投資家の株式・債券凍結などは、株価や利回りが良好でも価値がゼロに近づいた典型例にあたります。
通貨リスク
現地通貨が大きく下落したり、固定相場制(ペッグ)を放棄して切り下げたりすることで、ドル建てや円建てでのリターンが大きく目減りするリスクです。1997年のアジア通貨危機では、タイバーツが数カ月で半値近くまで下げました。現地の株価指数が現地通貨ベースで横ばいでも、外国人投資家から見たリターンは大きくマイナスになるということが、このとき実際に起こっています。
資本移動規制リスク
外国人投資家の配当送金停止、売却代金の本国送金制限、外貨購入規制などが発動されるリスクです。制度上の権利はあっても、実際に自国へ資金を戻せなければ実質的なリターンにはなりません。2022年以降のロシア、2010年代のアルゼンチンなどが代表的な例です。
制度・法リスク
契約の執行力、少数株主保護、会計基準、破綻処理の手続きなど、資本市場が前提としている「ルールの信頼性」にかかわるリスクです。財閥・寡占構造の強い国では、大株主の意向で少数株主が不利な条件を押しつけられる事例もあります。先進国と同じ水準のガバナンスを期待して入ると、静かに削られていくタイプのリスクです。
地政学リスク
武力紛争、経済制裁、貿易規制、海上チョークポイントの封鎖など、国家間関係に起因するリスクです。ホルムズ海峡やマラッカ海峡、スエズ運河といった「通り道」を抱える国は、自国が当事者でなくても、周辺での緊張の影響を正面から受けることになります。
数字で追いかける
感覚的な「なんとなく怖い」から一歩進むには、観測できる指標に置き換えることが早いです。もっとも広く使われるのが、ソブリン格付けとソブリン・スプレッドです。
ソブリン格付けは S&P、Moody’s、Fitch の3社が付与しており、投資適格(BBB− 以上)とハイイールド(BB+ 以下)の境目を跨ぐかどうかで、その国の債券を保有できる投資家の裾野が大きく変わります。機関投資家の多くは、投資適格ラインを割った瞬間に強制売却を迫られる運用ルールを持っているため、格下げの前後で債券・株・通貨が一斉に崩れるという現象がしばしば起こります。
日々の動きを追うには、ソブリンCDS スプレッド(国債のデフォルト保険料)と、JPモルガンのEMBI スプレッド(新興国ドル建て債と米国債の利回り差)が使いやすいです。どちらも日次で更新されるため、政治イベントや格下げ観測、商品価格の変動に対する市場の反応を先行指標として読み取れます。
株式リターンに波及する経路
債券の話は株式投資とは無関係に思えるかもしれないが、実際には次の経路で株価に直結します。
- ソブリンスプレッドの拡大 → 現地通貨金利の上昇 → 株式の割引率上昇 → バリュエーション(PER)の低下
- 通貨の下落 → 現地通貨ベース収益の「外貨換算後の目減り」 → ドル建てリターンの毀損
- 資本規制の発動 → 配当の実質受取不能 → インカム消失
- 格下げ → ETF や機関投資家の強制売却 → 現地株の需給悪化
決算がどれほど良くても、国の信用力が下方修正された瞬間に、現地株全体のバリュエーションが切り下がります。「良い会社を買ったはずなのに下がる」という新興国投資あるあるの正体は、多くがこの割引率経由の波及にあります。
個人投資家が取れる備え
カントリー・リスクをゼロにすることはできません。ただし、手触りのある範囲で備えることは十分に可能です。
- 国の分散を構成比で意識する:新興国のETFなどは、中国・インド・台湾・韓国の上位4カ国で指数の大半を占めています。自分のポートフォリオが実は「ひとつの国への集中」になっていないか確かめたいです。
- ETF の単一国比率を見る:新興国 ETF でも運用方針で国別上限は異なります。ETF構成銘柄の比率と、自分が想定していた配分を突き合わせます。
- 通貨ヘッジ付き商品を使い分ける:ドル高・円高局面では、ヘッジの有無で年率数%の差が出ます。コア資産はヘッジあり、サテライトはヘッジなしで通貨プレミアムを取りにいく、のような棲み分けが現実的です。
- 格付けのアウトルックを監視する:S&P・Moody’s・Fitch は格付けそのものに加えて、「ネガティブ」「ポジティブ」といったアウトルックも公表しています。これは格下げの先行指標として機能します。
- 送金規制リスクの高い国は金額上限を決めておく:過去に資本移動規制の前歴がある国は、戻せないリスクを前提に「失っても生活が揺らがない金額」に収めておくのが無難です。
次回は、実際に政府が投資家の資産を没収した歴史的な事例を振り返りながら、ここで並べたリスクが現実に発動したときに何が起きたのかを、もう少し具体像に寄せて眺めていきたいです。
画像クレジット: Aaditya Arora 氏(Pexels)/Pexelsライセンス(商用利用可、帰属表示義務なし)

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