歴史的大暴落の直前 PER —— バブルはどこから始まり、どこで弾けるか

株式市場の歴史を振り返ると、必ず数年に一度、大きな暴落がやってくる。1929年の大恐慌、1970年代のニフティフィフティ崩壊、1987年のブラックマンデー、1989年の日本バブル、2000年のドットコム、2007年のリーマン前夜。これらが起きた直前のバリュエーションは、どの水準まで膨らんでいたのか。同じ尺度で並べて見ると、バブルが「いつ始まり、いつ弾けるか」のパターンが、思いのほかきれいに浮かび上がる。

今回は、過去の代表的な暴落の直前 PER と CAPE を整理し、現在の水準と比較してみる。バブルを「予測する」ための指標ではないが、「自分の立ち位置を知る」ための鏡として、十分に強い参考材料になる。

主要な暴落直前のバリュエーション一覧

S&P 500(一部はダウや日経)を対象に、各暴落の直前ピーク時点の PER と CAPE を並べると次のような構図になる。

  • 1929年8月(大恐慌前夜):CAPE 約32倍、トレーリング PER 約25倍
  • 1972年12月(ニフティフィフティ崩壊前):CAPE 約24倍、トレーリング PER 約19倍
  • 1987年8月(ブラックマンデー前):CAPE 約18倍、トレーリング PER 約23倍
  • 1989年12月(日経平均バブル末期):日経平均 PER 約60倍超
  • 2000年3月(ドットコムバブル末期):CAPE 約44倍、トレーリング PER 約30倍
  • 2007年10月(リーマン前夜):CAPE 約27倍、トレーリング PER 約17倍
  • 2024〜2025年(現在):CAPE 約34〜37倍、トレーリング PER 約22〜25倍

こうして並べると、現在の米国株は「リーマン前夜」と「日本バブル」の中間というよりも、明らかに「ドットコム前夜」に近い領域にある。CAPE は2000年のピークには届かないが、過去140年で第2位の水準である。

バブルの共通要素

過去のバブル直前局面に、ほぼ共通して観察された要素がある。

  1. 新技術への熱狂:1929年の電化・自動車、1972年のテレビ・コンビューター、2000年のインターネット、現在の AI
  2. 緩和的な金融環境:低金利または流動性供給の急増
  3. 「今回は違う」フレーズの蔓延:ジョン・テンプルトンが「投資の歴史でもっとも危険な4語」と呼んだ表現が、メディアで頻発する
  4. 個人投資家の参入加速:証券口座開設数、信用買い残、レバレッジ ETF の流入が急増
  5. IPO ブーム:上場件数と初値騰落率が大きく跳ねる
  6. 銘柄集中:時価総額上位の数銘柄に資金が集中する

2024〜2025年の米国市場は、これらの要素のうち多くがチェックリストに並ぶ。AI 関連の急騰、過去の利下げサイクルから流動性が緩い局面、エヌビディアを筆頭とする上位銘柄への極端な集中、暗号資産・テーマ ETF への個人マネー流入。バブルかどうかは事後的にしかわからないが、「バブル的な特徴を満たしているかどうか」は、現在進行形でも観察可能だ。

バブル後の下落幅

暴落の規模も、過去のデータから一定のパターンが読み取れる。

  • 1929〜1932年:S&P 約 -86%(3年)
  • 1972〜1974年:S&P 約 -48%(2年)
  • 1987年10月:S&P 約 -34%(1日で約 -22%)
  • 1989〜2003年:日経 約 -80%(14年かけてのジリ下げ)
  • 2000〜2002年:S&P 約 -50%、ナスダック 約 -78%
  • 2007〜2009年:S&P 約 -57%

共通しているのは、「バブル時の高 CAPE は、最終的に必ず長期平均近辺まで戻る」という性質だ。CAPE 30倍超でピークアウトした市場は、その後の調整で CAPE 13〜18倍まで下げてくることが多い。

さらに観察できるのは、バブルが大きいほど、下落の谷が深く、回復に時間がかかるという傾向だ。1929年型・2000年型のバブルでは、ピークの株価水準に戻るまで7〜15年を要した。1989年の日経平均は、約34年経った2024年にようやく当時の高値を更新した。

「直前」の判別が難しい理由

過去を振り返れば「ここがピーク」と一目でわかるが、リアルタイムでは話が違う。シラー教授の「根拠なき熱狂」発言は1996年12月、その時点の CAPE は約26倍だった。だが市場はそこから3年余り、さらに上昇を続け、CAPE 44倍まで到達してから初めてピークアウトした。「割高に見えても、さらに割高になる時間がある」というのが、バブル末期の特徴である。

1989年の日経平均も、PER 60倍を超えていた時点で「明らかに異常」と言われていたが、実際にピークから本格的な下げが始まったのは、TOPIX が史上最高値を付けた1989年12月29日(最終取引日)であった。「明らかに割高」と「いま売るべき」の間に、しばしば数年の時間差がある。

この特性から、バブル局面でのスタンスは2通りに分かれる。1つは、CAPE で見て歴史的高水準にある時期は、「最後の上昇局面」を取りに行かず、ポジションを抑える。もう1つは、相場の勢いに乗って最後の数年を取りに行き、シグナルが点灯したら逃げる。前者は機会費用を払うリスク、後者は判断を誤って暴落に巻き込まれるリスクを抱える。

新興国の「同時暴落」傾向

米国市場の暴落は、ほぼ例外なく新興国市場にも波及する。1929年、2000年、2008年いずれの暴落でも、新興国株は米国以上に下げている。これは、新興国の流動性が低いため、外国人投資家の売り注文が一気に効くためだ。

  • 2000〜2002年:MSCI EM 約 -54%(米国 S&P -50%)
  • 2007〜2009年:MSCI EM 約 -65%(米国 S&P -57%)
  • 2020年3月:MSCI EM 約 -32%、米国 -34%(ほぼ同水準)

新興国は米国より割安な CAPE で取引されているが、暴落局面ではより大きく下げる、という非対称性を持っている。これを踏まえると、新興国分散は「平時のリターン向上」のために有効だが、「危機局面のヘッジ」としては機能しないと割り切ったほうがよい。

個人投資家としての心構え

バブル前夜的な水準にあるかどうかを把握しておくことは、ポートフォリオの設計に直接効いてくる。

  1. キャッシュ比率の確保:CAPE 30倍超の局面では、現金比率を平時より高めに(10〜20%)。暴落時の押し目買い余力
  2. リバランスの徹底:株式の比率が想定を超えて上振れしたら、機械的に債券・現金に戻す
  3. レバレッジを使わない:高 CAPE 局面で信用買い・レバレッジ ETF を使うのは、もっとも避けたい行動
  4. ドルコスト平均は維持:積立投資はやめない。10年スパンでは、必ず谷も買う
  5. 下げの心構え:50%下げが起きうる、と事前に覚悟しておく。慌てて売らない

暴落を回避することはできないが、暴落に「備える」ことはできる。CAPE が30倍を超えている期間が長く続くほど、いずれ来る調整が深く・長くなる傾向がある。10年単位で投資するのであれば、現在のバリュエーション水準を冷静に直視しておく価値がある。

次回は C シリーズの締めくくりとして、ミクロ経済学の損益分岐点と限界費用の考え方を取り上げる。企業がどの売上水準で黒字化し、どの水準で事業を畳むのか、というシンプルだが応用範囲の広いフレームを整理したい。


画像クレジット: Nataliya Vaitkevich 氏(Pexels)/Pexelsライセンス(商用利用可、帰属表示義務なし)

SHARE
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

comment

コメントする