「新興国株 やめとけ」と検索してこの記事に来た方は、おそらく、すでにどこかで否定的な意見を聞いたあと、もう一度確かめに来たのだと思います。
結論を先に言えば、「新興国株はやめとけ」は、半分正しく、半分間違っている。半分正しいのは、新興国投資には先進国にはないリスクが確かにあるからです。半分間違っているのは、その否定論のほとんどが「やってはいけない型」だけを見ていて、「やっていい型」を切り分けていないからです。
本記事では、まず「やめとけ」と言われる 5 つの根拠を、データで一つずつ確認します。そのうえで、本当に避けるべき 4 つのパターンと、それでも入る価値がある 5 つの条件を整理します。読み終わったとき、自分にとって新興国株が「やめとくべきか」「踏み込むべきか」を、自分の頭で判断できる材料が揃うようにしています。
1. 「新興国株はやめとけ」と言われる 5 つの根拠
否定論にもバリエーションがあるが、整理すると以下の 5 つに収束します。
① 過去 10 年、先進国(特に米国)に大負けしている
2014 年から 2024 年までの 10 年間、MSCI Emerging Markets Index は年率リターンで MSCI World Index に 5〜7 ポイント負けました。S&P 500 と比較すると、その差はさらに広がります。
この 10 年間で「新興国株を持っていれば米国株を持つよりも報われた」と言える時期は、実質的に存在しません。これは「やめとけ」派の最大の論拠になっています。
② ボラティリティが高い ── 暴落の振れ幅が違う
新興国株は、先進国株より 20〜40% ほど標準偏差が高いです。2008 年のリーマンショックでは、先進国株が約 50% 下落した一方で、MSCI EM は 60% 超下落しました。回復までの時間も先進国より長くかかりました。
「同じ 1,000 万円を入れても、新興国は 600 万円まで溶ける可能性がある」という現実は、頭で理解していても精神的にきついです。
③ 通貨リスクと政治リスクが、株価リターンを食う
新興国通貨は、長期で先進国通貨に対して下落しやすい構造があります。仮にローカル通貨建ての株価が 30% 上がっても、通貨が 30% 下がれば、ドル換算・円換算でのリターンはゼロになります。これがいわゆる通貨リスクです。
政治リスクはもっと厄介で、ロシアによる外国資本の凍結(2022 年)、トルコの突然の利下げ(2021〜2023 年)、中国の規制強化(2021 年〜)など、ある日突然「ルールが変わる」事態が起こります。先進国にもないわけではないが、新興国の方が頻度・規模ともに大きいです。
④ 流動性が低く、思った値段で売れないことがある
フロンティア市場や一部の新興国市場では、1 日の出来高が極めて少ない銘柄が多いです。100 万円分を売ろうとしただけで、自分の売り注文が株価を 5% 下げる、ということが普通に起きます。
暴落時にはこれが致命傷になります。「逃げたい時に逃げられない」マーケットは、危機時のリスクが大きいです。
⑤ 投信・ETF からアクセスできない国が多い
日本の証券会社で買える「新興国株インデックス」の中身は、ほぼ 中国・台湾・インド・韓国・ブラジルなど MSCI EM の主要国に集中します。バングラデシュ・ベトナム・パキスタン・スリランカといったフロンティア市場は、投信・ETF からは事実上アクセスできません。
これは「やめとけ」というより「やりたくてもできない」に近いが、現実問題として、興味のある国に届く手段がないという壁は大きいです。
2. その「やめとけ」は、半分正しい ── データで確認する
5 つの根拠は、どれも事実です。否定論を頭ごなしに否定するのは正直ではありません。だが、それぞれの根拠には「ただし」がつきます。
① 過去 10 年負けた。ただし、長期で見ると話が変わる
1995 年以降の 30 年で見ると、MSCI EM は MSCI World に勝った時期と負けた時期がほぼ拮抗します。2003〜2010 年の 7 年間、新興国株は先進国株を 年率 15 ポイント以上上回り続けました。米国株一強の時代は永遠ではない、というのは投資史が繰り返し示してきたパターンです。
シラー PE(CAPE)で見ると、2025 年現在の米国株は 30 倍超、新興国株は 15 倍前後。バリュエーション差は約 2 倍。「これから 10 年」のリターンが、過去 10 年と同じになる保証はありません。
② ボラが高い。ただし、ポートフォリオの 10〜20% なら飲める
新興国株を 100% 持つのではなく、コア(先進国インデックス)80%+サテライト(新興国)10〜20% という構成にすれば、ポートフォリオ全体のボラは劇的には変わりません。
5,000 万円のポートフォリオなら、新興国は 500〜1,000 万円。これが半分溶けても 250〜500 万円のドローダウンで、ポートフォリオ全体への影響は 5〜10% 程度。許容範囲の人は多いです。
③ 通貨リスク・政治リスクは存在する。ただし、回避は可能
通貨は、長期では「経常黒字国の通貨」が強くなる傾向があります。バングラデシュ・ベトナム・インドネシアなどは、製造業・輸出産業の構造が成熟しつつあり、「無条件に通貨が下がる新興国」とはタイプが違います。
政治リスクは、「資本規制の歴史がある国は避ける」という単純なフィルタで多くを回避できます。アルゼンチン、ベネズエラ、ロシア、トルコ ── これらは「やめとけ」の典型例だが、すべての新興国がこれに該当するわけではありません。
④ 流動性は低い。ただし、長期投資なら問題にならない
流動性が問題になるのは「すぐに売りたい時」だけです。10〜20 年単位で持ち続ける前提なら、日々の出来高は重要ではありません。長期投資家にとって、低流動性は割引価格を生む武器でもある。
⑤ 投信・ETF で買えない。ただし、現地口座を開けば買える
これは技術的な手間の問題で、「絶対にできない」ではありません。実際、私はバングラデシュの現地証券口座を日本から開設して、5 年以上保有しています。手順を知っていれば、特殊なスキルは要りません。
3. “本当にやってはいけない”新興国投資の 4 パターン
「やめとけ」派の言うことが正しくなるのは、以下の 4 パターンに該当するときです。逆に言えば、これを避ければ多くの否定論は当てはまりません。
パターン 1: 全資産を新興国に突っ込む
これは論外。コア 80%+サテライト 20% の比率を守らず、資産の 50% 以上を新興国に振ると、暴落時に投資を続けられなくなります。新興国投資は「相対的に少額の資金で、長期に張る」のが基本です。
パターン 2: 短期の値動きで売買する
新興国は流動性が低く、ニュースに対する反応が過剰になりやすいです。短期売買すると、スプレッド・税金・心理的疲労でリターンの大半が消えます。最低でも 5 年、できれば 10 年単位で見る前提が必要です。
パターン 3: ストーリーだけで個別株を買う
「インドは人口が増えている」「ベトナムは中国の代替」── こうしたストーリーは、もうすでに株価に織り込まれていることが多いです。個別株は、必ず決算(ROE・配当・継続事業ベース EPS)を確認してから買います。これは新興国も先進国も同じです。
パターン 4: 資本規制の歴史がある国に集中する
過去にハイパーインフレや資本規制を起こしたことがある国は、構造的にリスクが高いです。アルゼンチン、ベネズエラ、ロシア、トルコ、ジンバブエなどは、上級者でない限り避けるのが無難です。
4. それでも入る価値がある、5 つの条件
では、どういう条件が揃っていれば、新興国株に入る価値があるのか。逆張り的にまとめると以下の 5 つです。
- コアのインデックス投資が、すでに走っている ── これがない状態で新興国に入るのは飛び級。まず先進国インデックスの自動積立を 3〜5 年続けてから検討します。
- サテライト枠(資産の 10〜20%)がある ── これを超えるサイズで入ると、ボラに耐えられません。
- 10 年単位で持ち続ける覚悟がある ── 5 年では値動きの偶然が大きいです。長期で構造変化を取りに行きます。
- 具体的な国・銘柄に踏み込む準備がある ── 「新興国インデックス」をなんとなく買うのではなく、「なぜその国・なぜその銘柄か」を自分の言葉で説明できる状態。
- 暴落時に追加で入金できる現金余力がある ── 新興国は暴落時こそ買い場。だが現金がなければ買えません。
この 5 つが揃うなら、「やめとけ」という汎用アドバイスは、あなたには当てはまりません。
5. 結論:新興国株は、自分軸の投資家にとっての武器になる
「新興国株はやめとけ」は、初心者向けの、もっとも安全側に倒した汎用アドバイスとして、半分は正しいです。何も考えずに踏み込むと、ボラと政治リスクで撤退することになるからです。
だが、コアが走っていて、サテライト枠があり、10 年単位で持つ覚悟がある投資家にとっては、新興国株は「米国株一強が永遠ではないシナリオ」へのオプションとして機能します。これは、保険であり、武器でもあります。
判断基準は、他人の「やめとけ」ではなく、自分のポートフォリオ構成・時間軸・リスク許容度です。本記事のフレームで自分を点検してみて、入るならどう入るか、入らないなら何が足りないか。それを自分の言葉で説明できれば、「やめとけ」論はもう通り過ぎていいです。
FAQ ── よくある質問
- Q. 「新興国 株 やめとけ」って結局正しいんですか?
- A. 何も考えずに資産の 50% を入れる前提なら正しいです。コアが走っていてサテライト 10〜20% に収めるなら、その汎用アドバイスは当てはまりません。判断は自分のポートフォリオ構成を起点にします。
- Q. 投信で買える新興国インデックスでも危険ですか?
- A. 投信は流動性問題は回避できるが、中国・台湾・韓国の比率が高く、「フロンティア市場の成長」を取りにいくなら不十分。新興国インデックスは「安全側の入口」、現地直接投資は「先取り益を取りに行く出口」と分けて考えるのがいいです。
- Q. バングラデシュ株はどうやって買うんですか?
- A. 投信・ETF では買えません。日本から現地証券会社の口座を開設し、Wise などの送金サービスで入金して買います。バングラデシュ投資ロードマップ に 4 STEP で整理してあります。
- Q. いま入るのは遅いですか?
- A. シラー PE で見ると、米国株 30 倍超に対して新興国株 15 倍前後。バリュエーション差は約 2 倍。「過去 10 年負けた」ということは、これから 10 年に向けてのスタート地点が低いとも言えます。
- Q. 個別株は危険じゃないですか?
- A. 個別株は、決算(ROE・配当・継続事業ベース EPS)を毎期確認できる前提なら、インデックスよりリターンが取れることがあります。ストーリーで買って決算を見ない、が一番危険。
【免責事項】本記事は筆者の個人的な見解と経験に基づきます。投資判断はすべて自己責任で。新興国投資は元本割れのリスクが先進国投資より大きいため、自分の許容度の中でサイジングしてほしいです。

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