グローバルサウスの投資機会 —— 概念と現実の距離感をそろえる

この数年、ニュースや証券会社のレポートで「グローバルサウス」という言葉を目にする機会が一気に増えました。対中・対露制裁の文脈で政治用語として広まった側面もあるが、投資家が普段使いで耳にするときは、だいたい「中国を除く広い意味での新興・途上国」くらいの粗い意味合いで使われていることが多いです。

ただ、言葉の輪郭が広いぶん、「それで具体的に、どこの株を買うとグローバルサウスに投資したことになるのか」という問いには意外と答えにくいです。今回はこの言葉をもう少し解像度を上げて、投資対象としてどう扱うかを整理しておきたいです。

グローバルサウスとは何を指す言葉か

グローバルサウス(Global South)は、もともと冷戦期の南北問題に由来する言葉です。一次産品を輸出し、工業製品を輸入する南半球中心の国々という含意でした。近年は少し意味合いが変わり、次のような特徴を持つ国々を総称するのが一般的です。

  • 人口構成が若く、労働力人口が増え続けています
  • 一人当たり GDP は先進国の数分の一だが、経済成長率は相対的に高いです
  • 政治的には非同盟・全方位外交の色合いが強く、米中どちらの陣営にも深く組み込まれていません
  • エネルギー・鉱物・農産物など、サプライチェーン上の要衝を握っているケースが多いです

具体的には、インド・インドネシア・ベトナム・フィリピン・バングラデシュといった南・東南アジアの新興国、サウジアラビア・UAE・トルコ・エジプトといった中東、ナイジェリア・南アフリカ・ケニア・エチオピアといったアフリカ、そしてブラジル・メキシコなどのラテンアメリカが、代表的に挙がってくる国々です。中国はサイズが大きすぎて外されるか、別枠で扱われることが多いです。

なぜいま改めて注目されているのか

グローバルサウスが資本市場の文脈で注目度を上げている背景には、いくつかの構造的な理由があります。

  1. 米中対立によるサプライチェーン再編:中国一極集中の生産体制から、インド・ベトナム・メキシコ・インドネシアといった「中国+1」の国々に、製造業投資が分散し始めました
  2. 人口動態の天井と床:先進国と中国で高齢化と人口減少が進む一方、インド・アフリカ諸国・東南アジア一部では労働力人口がまだ10〜20年増え続ける見通し
  3. 資源ナショナリズムとエネルギー転換:リチウム、コバルト、ニッケル、銅、レアアースなど、脱炭素関連鉱物の供給源として存在感が増しています
  4. ドル依存の相対化:現地通貨建てソブリン債市場が育ち、ハードカレンシー依存度がかつてより下がっている国が増えました

もちろん、これらは同時に逆風側の材料にもなります。米中対立が激化すればどちらに付くかを迫られる局面が増えるし、資源ナショナリズムは外資にとってのリスクでもあります。「追い風でもあり向かい風でもある」という両義性を、投資家としては常に意識しておく必要があります。

地域ごとの投資機会の色

ひとくちにグローバルサウスといっても、地域ごとに機会と注意点の重心が違います。

南アジア(インド中心):人口・若さ・IT 産業の厚みが揃い、中長期のストーリーとしては最も整っている地域です。MSCI EM 指数に占める比率もじわじわ上がっています。株式のバリュエーションは既に割安水準とは言えず、押し目を待つ発想が必要になる局面が多いです。

東南アジア(ASEAN):ベトナム・インドネシア・フィリピンが中心。製造業の受け皿としての期待が大きく、消費市場としても成長余地があります。ただしベトナムは MSCI でまだフロンティア扱いで、機関投資家マネーの入り口が限定的である点は留意する必要があります。

中東:サウジアラビア・UAE・カタールといった湾岸諸国が、ソブリン・ウェルス・ファンドを通じて世界の資本市場で存在感を増しています。現地上場株も MSCI EM に採用されたことで存在感が上がったが、規制やガバナンス面の癖は大きいです。

アフリカ:南アフリカ・ナイジェリア・ケニア・エジプトといった国が投資対象として挙がるが、市場の流動性は限定的で、通貨リスクも大きいです。現実的には個別銘柄ではなく、アフリカ株フロンティア ETF や、アフリカで稼ぐ先進国企業(資源メジャーや通信会社)経由でエクスポージャーを取るのが穏当です。

ラテンアメリカ:前回整理した通り、コモディティ・サイクルと政治サイクルの影響が大きいです。グローバルサウスという文脈では、メキシコが米中対立の受益者として特別枠で語られることが増えてきました。

個人投資家としての入り口

グローバルサウスにまるごと投資する完璧な商品というものは、今のところ存在しません。実務的には、手持ちの道具を組み合わせていくことになります。

  1. MSCI EM ex-China ETF を基礎にする:中国を除いた新興国に広く分散できます。グローバルサウスという発想にもっとも近い既製の商品です
  2. 国別 ETF で厚みを加える:インド、ベトナム、インドネシア、メキシコなど、特にストーリーを信じる国に上乗せします
  3. 地域テーマ ETF やフロンティア ETF を少量:アフリカや中東への薄いエクスポージャーとして、数%以内で持ちます
  4. 資源・コモディティ経由のエクスポージャー:銅、リチウム、ウランの ETF や、資源メジャー株を通じて、グローバルサウス経由の需要をつかみます
  5. 配当・キャッシュフロー重視の銘柄選別:新興国株は為替で振り回されるため、インカム面で多少の緩衝材を持っておくと精神的に楽です

全体としては、「グローバルサウスというテーマで1本だけ持つ」よりも、「ポートフォリオの10〜20%をグローバルサウス関連に広く薄く分散する」くらいの使い方が現実的です。コア資産として全面に出すにはまだ振幅が大きく、かといって無視するには構造変化が大きすぎる、というのが今の立ち位置です。

次回は、このグローバルサウスの中から「次のホームラン新興国」を見極めるときに、どんな物差しを当てればよいのかを、もう少し踏み込んで整理してみたいです。


画像クレジット: Detty Image 氏(Pexels)/Pexelsライセンス(商用利用可、帰属表示義務なし)

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