国際分散投資をしよう、と思い立ったときに最初にぶつかるのが、「そもそも世界の株式市場は、どれくらいのサイズで、どこにどれくらい偏っているのか」という地図の話である。これが頭に入っていないと、「米国株:日本株:新興国株=3:3:3」のような、一見もっともらしいが偏った配分を選んでしまいがちになる。
今回は、世界の株式市場を時価総額で俯瞰したうえで、MSCI ACWI(All Country World Index)が採用している現実的な配分がどうなっているのか、そしてその地図を踏まえてポートフォリオをどう組み立てると素直なのかを整理しておきたい。
世界全体の株式時価総額は約110兆ドル
2024年末時点で、世界の上場株式の時価総額は概ね 110〜120兆ドル前後とされている。これは同時期の世界の名目 GDP(約105兆ドル)とほぼ同規模で、指標として「バフェット指数(時価総額÷GDP)」が100前後に振れているのは、この関係の反映だ。
この110兆ドルが、どのように世界に散らばっているかは、データソースによって多少ずれるが、おおよそ次のような構成になっている。
- 米国:約60兆ドル(世界の約55〜60%)
- 日本:約7兆ドル(約6〜7%)
- 欧州先進国:約15兆ドル(約13〜15%)
- 中国本土+香港:約12兆ドル(約10%)
- その他新興国:約10兆ドル(約8〜10%)
- カナダ・オーストラリア・その他先進国:約6兆ドル(約5%)
ここで注目したいのは、米国の圧倒的な大きさだ。1国で世界の半分以上を占めている市場は歴史的にも例がなく、1989年の日本ですら世界の約4割、1910年代の英国が同じく約4割だった。米国の50%超えは、近代の資本市場史における最大の集中状態である。
MSCI ACWI と FTSE All World の配分
機関投資家の世界標準である MSCI ACWI(投資対象は先進国23ヵ国+新興国24ヵ国)における、2024年末頃の国別ウエイトはおおよそ次のようになっている。
- 米国:約62%
- 日本:約5.5%
- 英国:約3.5%
- 中国:約2.7%
- フランス:約2.5%
- カナダ:約2.5%
- スイス:約2.2%
- 台湾:約2.0%
- インド:約2.0%
- ドイツ:約1.9%
上位10ヵ国で、世界の時価総額の約90%を占めている。MSCI EM(新興国)の単体で見ても、中国・インド・台湾・韓国の上位4ヵ国だけで約7割に達する。「新興国分散投資」と銘打った商品が、実は中国・インド・台湾・韓国の詰め合わせになっている、というのはよくあるパターンだ。
FTSE All World(先進国+新興国を合わせて4,000銘柄強を対象)で見ても、配分はほぼ同様だ。MSCI と FTSE の違いは、韓国が先進国か新興国か(FTSE は先進国、MSCI は新興国に入れている)、中国 A 株の採用比率などの細部に限られる。
指数ウエイトと経済規模の乖離
世界の時価総額分布は、経済規模(名目 GDP)とは必ずしも一致しない。2024年頃の比較を並べると、この乖離がよく見える。
- 米国:GDP 世界シェア約25% vs 株式時価総額シェア約55〜60%
- 中国:GDP シェア約17% vs 株式時価総額シェア約10%
- 日本:GDP シェア約4% vs 株式時価総額シェア約6%
- インド:GDP シェア約3.5% vs 株式時価総額シェア約3.5%
米国の株式時価総額が GDP の2倍以上で取引されているのに対し、中国は GDP の半分前後に留まる。これは、米国の企業の稼ぐ力が世界で突出していること、米国の上場企業の収益の多くが海外由来であること、そして中国の株式市場が経済規模に対して「資本化されていない」こと、を同時に示している。
この乖離は、「GDP 比率で配分する」と「時価総額比率で配分する」のどちらがより中立かという論争の源にもなっている。投資の現場では、多くの場合、時価総額加重が事実上の中立ポジションとして使われている。
地域別インデックスの設計
投資を実行する立場で知っておきたいのが、地域別インデックスの切り分け方だ。主な区分は次の通り。
- 先進国(MSCI World):米国・カナダ・日本・欧州先進国・オーストラリア・香港など23ヵ国
- 新興国(MSCI EM):中国・インド・韓国・台湾・ブラジル・メキシコなど24ヵ国
- フロンティア(MSCI Frontier Markets):ベトナム・カザフスタン・ナイジェリア・ケニアなど
- ACWI:先進国+新興国の統合インデックス
- ACWI IMI:ACWI に小型株まで含めた、より網羅的なもの
日本から投資する個人の場合、ETF や投信でアクセスしやすいのは、ACWI と S&P500 を組み合わせる構成か、先進国と新興国を別建てで持つ構成だ。ACWI を1本持てば世界の株式時価総額の95%以上をカバーできるため、シンプルさを重視するならまずはここから始めて、追加的に興味のある地域(新興国、フロンティア、テーマ)をサテライトで乗せる、という組み方が現実的である。
日本人投資家にとっての含意
時価総額マップを眺めて気づくのは、日本人投資家にとっての「ホームバイアス」が、意外と大きな意味を持つ、という点だ。
- 世界時価総額に占める日本のウエイトは 5〜7% に過ぎない
- にもかかわらず、個人投資家の保有株の多くは日本株に偏っている
- 生活費と収入が円建て、さらに資産も日本株主体、だと同じ通貨リスクに二重に晒される
「ホームバイアスは世界共通の現象」とも言われるが、経済構造としての日本の比重が下がり続けているなかで、昔ながらの日本株中心のポートフォリオは、自然と世界全体への配分から外れていく。この点を踏まえて、以下のような基本形を出発点にしてみてもよい。
- ACWI(または S&P500 + 先進国 ex-US + 新興国)で、時価総額加重のコアを作る
- 日本株は、時価総額シェアに近い 5〜10% の範囲で、あえて重くしない
- 新興国は別建てで、自分の信じる国に対し ACWI 比率+α で上乗せする
- サテライトで、テーマ型 ETF やアクティブ戦略、個別株を配置する
これは特定の時期に強い構成ではなく、どの年でも大きく外さないという中庸な構成だ。世界の株式市場マップを知らずにポートフォリオを組むと、自分の配分が時価総額から見てどのくらい偏っているのか、自分で気づけない。ひとまず地図だけでも頭に入れておくと、運用の方向感覚が大きく変わる。
次回は、短期的な株価変動を左右する経済指標の中でも、特に効きの強い「雇用統計(NFP)」を取り上げる。月に一度の発表が、なぜこれほど市場を動かすのか、そのメカニズムを整理したい。
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