若いうちから投資を始めるべき数理的な理由 —— 複利の効きは時間で決まる

若いうちから投資を始めたほうがいい、というのは投資の世界でほぼ唯一と言っていいほど広く合意されている格言です。ただ、「なぜ若いうちから始めるべきなのか」を数字で腹落ちしている人は、実はそれほど多くないです。

「複利が効くから」という一般論は知っていても、具体的に何年前から始めるとどれだけ差がつくのかを手元で一度計算してみると、想像以上の格差が目の前に立ち上がってきます。今回は毎月1万円という、現実的に続けられそうな金額を前提に、時間の長さがどんな形で効いてくるのかを眺めてみたいです。

複利の基本 —— 72の法則

本題に入る前に、「いつになったら資産が2倍になるか」を暗算できる便利な目安である72の法則を押さえておきたいです。これは、元本が2倍になるまでのおおよその年数を、72を年利回りで割るだけで求められるというものです。

  • 年3%の利回り:72 ÷ 3 = 24年で2倍
  • 年5%の利回り:72 ÷ 5 ≒ 14年で2倍
  • 年7%の利回り:72 ÷ 7 ≒ 10年で2倍
  • 年10%の利回り:72 ÷ 10 ≒ 7年で2倍

長期で見たときの米国株式の実質リターンがおよそ年6〜7%、名目リターンが年9〜10%前後と言われているので、株式インデックスに投資していた場合、おおむね10年で資産が2倍になる、というのが過去100年の平均像です。20年なら4倍、30年なら8倍、40年なら16倍というペースです。

毎月1万円を積み立てた場合のシミュレーション

それでは、具体的に「毎月1万円(年12万円)」の積立を、年利5%で運用した場合の金額を並べてみます。数字は概算だが、傾きの感触をつかむには十分です。

  • 10年後: 元本120万円 → 評価額 約155万円(+35万円)
  • 20年後: 元本240万円 → 評価額 約412万円(+172万円)
  • 30年後: 元本360万円 → 評価額 約833万円(+473万円)
  • 40年後: 元本480万円 → 評価額 約1,526万円(+1,046万円)

ここで注目したいのは、元本と運用益の関係が時間とともに逆転していく点です。10年目では運用益はまだ元本より小さいが、20年目でほぼ同水準になり、30年目には運用益のほうが大きく、40年目にはもはや元本は全体の3分の1以下になっています。「後半になればなるほど雪だるまが大きくなる」という複利特有の加速が、はっきり現れています。

年利回りが違うと、最終金額はどれだけ変わるか

同じ月1万円を30年続けた場合、年利回りによって結果がどのくらい変わるのかも並べておきたいです。

  • 年3%で運用: 約582万円
  • 年5%で運用: 約833万円
  • 年7%で運用: 約1,220万円
  • 年9%で運用: 約1,833万円

年利3%と9%では、30年でおよそ3倍超の差がつきます。元本は同じ360万円でも、運用先を「高格付けの国債中心」にするか「株式インデックス中心」にするかで、到達点が全く違うものになります。ここに、現金だけで貯める場合の「年0〜1%」を加えると、差はさらに広がります。

「10年早く始める」の意味

もうひとつ、感覚的に効きの強い比較が「始める年齢の違い」です。25歳と35歳から、それぞれ毎月1万円・年利5%で運用を始めた場合、65歳時点での資産はどうなるか。

  • 25歳スタート(40年間積立): 約1,526万円
  • 35歳スタート(30年間積立): 約833万円

10年の差で、最終資産に700万円近い開きが出ます。元本で言えば追加の120万円しか積まなかった10年分が、40年時点では約700万円の差に化けている計算になります。逆の言い方をすれば、若いときの1万円は、老後の1万円よりもはるかに価値の高いお金だ、ということになります。

これは、投資を後ろ倒しにしても似たような成果が得られる、という発想を否定する一番強い根拠でもあります。「あと10年は仕事で貯めて、50歳から本格的に運用しよう」という計画は、失った複利の10年を取り戻すために、積立額を数倍に増やす必要があることを意味しています。

途中で引き出さないことの大切さ

複利の雪だるまがもっとも崩れやすいのは、後半の急成長期で一部を取り崩したときです。30年目・40年目に含み益が大きく膨らんだ局面で、住宅頭金や子の進学費用に充当するという判断は、家計全体としては妥当でも、長期の資産形成という観点からは大きな機会損失を生みます。

このため、長期運用のための口座と、短中期で使うお金を入れておく口座は、物理的に分けておくのが無難です。日本の NISA や iDeCo のような税優遇制度は、引き出し制限そのものが「途中で取り崩さないための仕組み」として機能している側面もあります。積立期間と目的を明確に分けるだけで、複利の雪だるまが途中で崩れる確率はかなり下がります。

いつから始めればいいか、に対する最終回答

毎月1万円・年利5%・40年で1,500万円という数字を眺めると、若いうちから始めるべき理由はシンプルに要約できます。

  1. 複利は、期間に対して指数関数的に効きます。1年多く運用すれば、その1年は最後尾ではなく最前列に積まれます
  2. 毎月の積立額より、始める年齢のほうが最終資産に効きます
  3. 運用先の利回り選択も長期では大きく効くが、株式インデックスを中心に据えれば、過去の平均として年5〜7%の現実味はあります
  4. 途中で取り崩さない仕組み(口座分離、税優遇制度)が、複利の最後の加速を守ります

結局のところ、時間だけは後から買い足すことができない、という一点に尽きます。運用の技術は後からいくらでも身につけられるが、「30代前半まで何もしなかった時間」は、50代になってから取り戻すことはできません。

次回は、長期投資で「自分が何%のリターンを期待していいのか」という、期待値の置き方の話を扱いたいです。過去100年の株式・債券・現金のリターンを並べて、実質と名目の違いも整理していく予定です。


画像クレジット: Enrique Zafra 氏(Pexels)/Pexelsライセンス(商用利用可、帰属表示義務なし)

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