株式市場の世界には、「特定の月や曜日にリターンが偏る」というアノマリー(経験則的な異常)がいくつか知られている。なかでも有名なのが「1月効果(January Effect)」と「1月バロメーター(January Barometer)」だ。前者は「1月のリターンが他の月より高い」、後者は「1月の方向が、その年全体の方向を予言する」という主張である。本当にそうなのか、過去70年余りのデータで検証していきたい。
G シリーズは、こうした季節性・アノマリーを真面目に検証していく回だ。すべて鵜呑みにする必要はないが、過去のデータがどう語っているかを知っておくと、年末年始のニュースの読み方が少し変わってくる。
1月効果とは何か
1月効果は、「年間12か月のなかで、1月のリターンが平均的に高い」というアノマリーである。1976年に Sidney B. Wachtel が初めて指摘し、1983年に Donald Keim が小型株の1月リターン優位を実証研究で示したことで、広く知られるようになった。背景の説明として伝統的に挙げられているのは、次のような要因だ。
- タックスロス・セリングの反動:12月に税対策で売られた銘柄を、1月に再度買い戻す動き
- 年末ボーナスの流入:個人投資家が新年に資金を投入する
- 機関投資家のリポジショニング:年初に新規ポジションを構築
- ウィンドウドレッシングの解除:12月にお化粧買いをした銘柄を1月に処分する逆効果
これらの説明はそれぞれ部分的に真実を含むが、いずれも完全に決定的ではない。逆に「アノマリーが知られた瞬間、それを利用する取引で消える」という効率的市場仮説の予言通り、1月効果は近年弱まっている、というのが共通理解になりつつある。
過去70年の月別リターンを並べる
S&P 500 の月次リターン(配当込み)の月別平均を、1950〜2024年の75年で算出すると、概ね次のような構図になる。
- 1月:+1.0%
- 2月:+0.0%
- 3月:+1.1%
- 4月:+1.5%
- 5月:+0.4%
- 6月:+0.1%
- 7月:+1.2%
- 8月:+0.0%
- 9月:-0.6%
- 10月:+0.9%
- 11月:+1.6%
- 12月:+1.4%
この数字を見ると、1月は確かにプラスではあるが、4月、7月、11月、12月の方がむしろ高い。「1月効果」は確かに存在するが、近代の S&P 500 では、突出して高いというほどではない、というのが正直なところだ。
むしろ目を引くのは、9月の -0.6% と11月〜12月の +1.5%前後 という対比である。「Sell in May and go away」(5月に売って秋まで離れていろ)という別のアノマリーは、9月の弱さと年末の強さを反映していると言える。
小型株の1月効果は依然として残っているか
もともとの1月効果の研究は、S&P 500 ではなく、小型株(Russell 2000、または同様の小型株指数)で示されたものだった。小型株の1月リターンは、1980年代までは月平均5〜7%という、他月(1〜2%)と比べて圧倒的な数字だった。
しかし、近年(2000年以降)の小型株1月リターンは、月平均1〜2%程度まで縮小している。これは、上場投資信託(ETF)や、機械的なリバランスをするファンドの普及によって、12月のタックスロス・セリングと1月の買い戻しが、ある程度織り込まれるようになったためと考えられる。
小型株の1月効果は「過去には強烈に存在した、現在は弱くなっている、ただし完全には消えていない」というのが、現在の研究の合意だ。年率1〜2%の優位は、長期で見れば無視できないが、税金とコストを考えると、これだけで儲ける戦略を組むのは難しい。
1月バロメーターとは何か
もう一つの有名なアノマリーが「1月バロメーター」である。これは「1月の S&P 500 のリターンが、その年全体のリターンの方向と一致する確率が高い」という主張で、1972年に Yale Hirsch が初めて言及した。
米国 1950〜2024年のデータで実際に検証すると、1月リターンと年間リターンの方向一致率は、概ね次のような結果になる。
- 方向一致率(プラス・マイナス符号一致):約75%
- 1月がプラスのとき、年間もプラスになる確率:約83%
- 1月がマイナスのとき、年間もマイナスになる確率:約56%
「1月がプラスならその年も上がる」確率は約83%で、ランダム(50%)よりかなり高い。しかし、「1月がマイナスならその年も下がる」確率は56%で、ほとんどコイントス並みに過ぎない。1月バロメーターは、「上昇予測の指標」としては部分的に有効だが、「下落予測の指標」としてはほぼ役立たない、というのが定量分析の結論だ。
そもそも統計学的に有意か
1月効果と1月バロメーターについて、統計学的な厳密な検定を行うと、結論は微妙になる。サンプルサイズ(75年)に対して、月次データの自然なバラつきを考えると、統計的に有意な差が出るには、もう少し強い偏りが必要である。研究者によっては、「1月効果は統計的偶然の範囲内である可能性が高い」と結論する人もいる。
これに関連する問題として、「データマイニング・バイアス」(多数の検定を試した結果、たまたま有意に見える組み合わせが見つかる)の指摘がある。月別、曜日別、相場サイクル別、と切り口を増やせば、必ずどれかは「有意に見える」結果が出る。1月効果も、その可能性を完全には否定できない。
新興国市場の1月効果
新興国市場でも、1月効果は観察されてきた。MSCI EM 指数で1990〜2024年の月別平均リターンを見ると、1月は他月より明確に高い数字を出している。
- 新興国 MSCI EM:1月平均 +2.5%、年間平均 +0.7%/月
- 米国 S&P 500:1月平均 +1.0%、年間平均 +0.8%/月
新興国は、機関投資家比率が低く、年初の資金フローが集中しやすいため、1月効果が比較的強く残っているとも解釈できる。一方で、新興国は通貨・為替変動が大きく、ドル建てリターンと現地通貨建てリターンで結果が異なるため、額面通り受け取るには注意が必要だ。
個人投資家としての付き合い方
1月効果と1月バロメーターを、ポジションに反映させるのは現実的ではない。仮に「1月だけ買い増す」戦略を取っても、年間1〜2%の差では取引コストと税金で消えてしまう。実用的な姿勢としては、次のような捉え方が有用だ。
- 「1月のリターンが強そうだから」と特別な行動を取らず、いつも通り積立を続ける
- 「1月が下げて年初から不安」というニュースに振り回されない(1月の悪さは年間の悪さを意味しない場合が4割以上ある)
- 新興国 ETF の1月の動きが、年間動向の弱いシグナルになりうる程度に頭の片隅に置く
- 研究上の「アノマリー」と「再現性のある収益機会」は別物、と理解しておく
「アノマリーがある」という事実は、それ自体が一つのリテラシーであり、ニュースの読み方を多少深くしてくれる。だが、それを利用して儲ける、という発想は、コストと税金を考えると現実的ではない、というのが正しい結論だろう。
次回は、1月効果と表裏の関係にある「タックスロス・セリング」を取り上げる。米国の個人投資家の税ルールから派生する、12月の小型株の弱含み現象について、定量的に検証していきたい。
画像クレジット: Boris Pavlikovsky 氏(Pexels)/Pexelsライセンス(商用利用可、帰属表示義務なし)

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