決算シーズンになると、ニュースやアナリストレポートで「EPS が市場予想を上回った」「営業利益は過去最高」「調整後 EPS はマイナスだった」といった表現が入り乱れる。同じ会社の同じ四半期の話なのに、使っている「利益」の定義が違うせいで、印象がずいぶん違って見えることがある。
利益の数字は1つではない、というのは当たり前のことだが、実際に数字を見比べてみると、どの段の利益を基準に判断しているかで、投資判断の方向性が180度変わることすらある。今回は、決算書の上から順に「利益」を分解して、特に使い勝手のよい3つの数字に焦点を当てて整理したい。
損益計算書を上から下へ
米国の 10-K や日本企業の有価証券報告書に載っている損益計算書(P/L)は、だいたい次のような順番で利益を計算している。
- 売上高(Revenue / Net Sales)
- 売上原価(COGS)を引いて → 売上総利益(Gross Profit)
- 販売費・一般管理費(SG&A)、研究開発費(R&D)を引いて → 営業利益(Operating Income)
- 営業外損益(金利収入・支払利息、持分法損益など)を加減して → 税引前利益(Pretax Income)
- 法人税を引いて → 継続事業からの純利益(Income from Continuing Operations)
- 非継続事業の損益・異常項目を加減して → 最終純利益(Net Income)
- 発行済株式数で割って → EPS(1株あたり利益)
このうち、投資判断で特に意味を持つのが、3つ目の「営業利益」、5つ目の「継続事業からの純利益」、そして7つ目の「EPS」である。名前は似ていても、それぞれが答えている問いが違う。
営業利益 —— 事業の素の稼ぐ力
営業利益は、その会社の本業がどれくらい稼いでいるのかを、資本構造や金利水準、臨時要因に影響されずに見るための指標だ。金融収支や一過性の特別損益を含まないため、売上から本業の費用だけを差し引いた「素の収益力」が現れる。
営業利益率(Operating Margin)=営業利益 ÷ 売上高 という指標を業界比較で眺めると、同じ売上高規模の2社でも、片方は20%超で安定的に稼いでいて、もう片方は5%で推移している、という違いがくっきり見えてくる。粗利率と営業利益率を並べて見ると、「原価構造で儲かっているのか」「販管費の抑制で儲かっているのか」という違いもわかる。
ここに、設備投資(CapEx)や減価償却費を加減することで、EBITDA や自由キャッシュフローといった別指標を作ることができる。営業利益は、本業の稼ぐ力を測る「基礎通貨」の役割を果たしている、と考えるとよい。
継続事業ベース EPS —— ノイズを外した1株益
単純な純利益と EPS は、会社が抱える「一時的な事情」をすべて含み込んだ数字である。事業売却益、訴訟和解金、リストラ費用、減損損失、為替差損益といった項目が入ってくると、年度ごとに EPS が大きく揺れ、長期のトレンドが読みにくくなる。
そこで実務で使われるのが、「継続事業ベース EPS(Continuing Operations EPS)」や「調整後 EPS(Adjusted EPS)」と呼ばれる数字だ。考え方としては、次のような項目を除外して、普段の事業から生み出される利益だけを取り出す。
- 事業売却・廃止に関連する一時的な損益
- リストラ関連の費用
- のれんや固定資産の減損損失
- 訴訟和解、保険金受取などの非経常項目
- 会計基準変更による影響
米国の SEC 開示では、この「Income from Continuing Operations」が標準的に分離表示されるため、継続事業ベース EPS は比較的容易に計算できる。日本では「特別損益控除後 EPS」「調整後当期純利益」などと呼ばれることが多い。アナリスト予想やコンセンサスが使っている EPS は、ほとんどの場合こちらの「ノイズを除去した EPS」である点を、頭に置いておきたい。
同じ会社で3つの利益を並べると
例として、架空の製造業 A 社の直近四半期を、3つの利益で並べてみる(単位:百万ドル)。
- 売上高:2,000
- 営業利益:300(営業利益率 15%)
- 継続事業からの純利益:220(税率約27%)
- 非継続事業損失:−150(事業売却の一時損失)
- 最終純利益:70
- GAAP EPS:0.14 ドル
- 継続事業ベース EPS:0.44 ドル
この会社の「決算」を、株価倍率(PER)で評価するとどうなるか。株価が10ドルの場合、GAAP EPS 基準では PER 71倍と、見かけ上は異常に割高に見える。一方、継続事業ベース EPS 基準では PER 23倍で、業種平均と大差ない水準に収まる。事業売却の一時損失を除いたときに、このビジネスが継続的にどれだけ稼ぐか、を反映しているのは後者のほうだ。
逆のパターンもある。事業売却益や保険金などで GAAP 純利益が一時的に膨らんだときは、GAAP EPS 基準の PER が見かけ上低く出て、割安に見えてしまう。この場合は、継続事業ベースに引き直すと PER は妥当な水準に戻る。
どの利益を使うべきか
ここまでを踏まえたうえで、投資判断で使い分ける場面を整理すると次のようになる。
- 業界内で競合と比較する:営業利益・営業利益率。資本構造や税率の違いを除外できる
- 長期トレンドと PER を見る:継続事業ベース EPS。ノイズを除いた形で、1株あたりの稼ぐ力の推移が追える
- 配当余力やバランスシートへの影響を見る:最終純利益。株主資本の蓄積や配当可能利益を測る
- キャッシュフロー、現金の動きを見る:営業利益と EBITDA、そしてフリーキャッシュフローを別立てで並べる
ニュースの見出しだけを追いかけていると、記者が選んだ1種類の数字で判断することになる。自分で決算を眺めるときは、少なくとも「営業利益」と「継続事業ベース EPS」の2つは毎回確認する習慣をつけておくと、見落としが減る。
新興国企業の決算で追加で気を付けたいこと
新興国投資においては、もう一段の注意点がある。
- 現地通貨建ての決算で見るか、ドル建てに換算して見るかで、利益率のトレンドが変わる
- 為替差損益が、営業外損益にかなりの規模で含まれることがある
- ハイパーインフレ国(アルゼンチン、トルコなど)では、IAS 29 に基づくインフレ会計の調整が入り、財務諸表の読み方が難しくなる
- 関連当事者取引が多く、営業利益の「純度」が先進国と異なる
現地通貨ベースで継続事業 EPS が伸びていても、ドル換算では横ばい、ということは新興国では珍しくない。「ドル換算した継続事業ベース EPS のトレンド」は、新興国銘柄を個別に追うときに持っておきたい1本の物差しである。
次回は、視点をマクロに戻して、世界の株式市場全体のサイズ感を整理してみたい。米国がなぜこれほどの比重を占めているのか、日本・欧州・新興国がどの位置にあるのか、投資可能ユニバースの地図を描いておきたい。
画像クレジット: Lukas 氏(Pexels)/Pexelsライセンス(商用利用可、帰属表示義務なし)

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