PER をプロはどう読むか —— トレーリング・フォワード・継続事業ベースの使い分け

株価の割高・割安を一発で判断したい、というニーズを満たしてきた最古参の指標が PER(株価収益率)だ。Yahoo! ファイナンスでも証券会社のサイトでも、まず最初に目にする数字でもある。

ところが、実務でアナリストやポートフォリオ・マネージャーが見ている PER は、個人投資家が画面で見ている PER とは、ほとんどの場合、別物だ。同じ「PER 18倍」という表記の裏に、まったく違う数字が入っていることが珍しくない。今回は、PER の3通りの読み方を整理し、新興国投資の文脈でどれを使うべきかを考えていきたい。

PER の基本式と3つの分母

PER の基本形は単純だ。

PER = 株価 ÷ 1株あたり利益(EPS)

株価のほうは、その日の終値で固定される。問題は分母の EPS で、ここに何を使うかで PER の意味がまるで変わる。実務でよく使われるのは、次の3通りだ。

  1. トレーリング PER(Trailing P/E):直近4四半期の実績 EPS を使う
  2. フォワード PER(Forward P/E):今後12カ月の予想 EPS を使う
  3. 継続事業ベース PER(P/E ex-special items):一時的な特別損益を除いた EPS を使う

たとえば S&P 500 の PER は、トレーリングベースで22倍、フォワードベースで19倍、継続事業ベースで20倍、という具合に、同じ指数でも数字がバラつくのが普通だ。指数だけでこれだけ違うのだから、個別株では差が一段と大きくなる。

トレーリング PER —— 確定した数字を見るがゆえの遅さ

トレーリング PER は、過去12カ月の実績利益を使う。確定した数字に基づくため、改ざんやズレの余地がない、という利点がある。一方で、過去のデータゆえに、未来の業績変化を反映できない弱点がある。

業績拡大局面ではトレーリング PER は割高に見え、業績縮小局面では割安に見える、という傾向が出る。次のような状況では特に注意が必要だ。

  • 景気後退から回復に向かっている局面:直近4四半期に利益が落ち込んでいるためトレーリング PER は跳ね上がっている。だが先行きの利益が伸びていれば、フォワードでは正常な水準
  • テック企業の急成長期:直近の利益が小さくトレーリング PER が3桁になっていても、来年の利益は数倍になる予想であれば、フォワードでは2桁前半
  • シクリカル株のピーク:利益が極大化しトレーリング PER が異常に低く見えるが、来期から業績が縮小する見通しの場合、フォワードはむしろ高い

「割安に見えるトレーリング PER」を額面どおりに信じて買うと、シクリカルピークでつかむ罠にハマりやすい。シクリカル業種(鉄鋼、化学、海運、半導体)では特に、トレーリングだけで判断するのは危険だ。

フォワード PER —— アナリスト予想に依存する

フォワード PER は、向こう12カ月のコンセンサス予想 EPS を使う。市場の期待を反映した数字で、機関投資家が最も重視している指標である。

ただし、フォワード PER はアナリスト予想の精度に強く依存する。次のような癖を知っておきたい。

  • アナリスト予想は、平均的に楽観バイアスがある(特に新興国・小型株)
  • 景気の転換点では、予想の調整が遅れる(リセッション入り直後はフォワード EPS が下方修正されきっていない)
  • カバレッジの少ない銘柄は、予想精度がそもそも低い
  • ガイダンスを出さない企業(特に新興国の中小型株)は、フォワード予想が大きくバラつく

米国大型株であれば、Bloomberg コンセンサスは比較的信頼できる。中国 A 株、インド中小型株、ブラジル中小型株などは、アナリスト数が少ないためフォワード EPS の質が落ちる。新興国の銘柄でフォワード PER を見るときは、「カバレッジ何人か」「直近修正方向はどうか」を併せてチェックすると、数字の信頼性を補正しやすい。

継続事業ベース PER —— ノイズを取り除いた利益で測る

3つ目が、特別損益を除いた継続事業ベース EPS を使う PER だ。具体的には次のような項目を取り除く。

  • のれん減損損失
  • 不動産・事業売却益
  • 訴訟和解金
  • 大規模リストラ費用
  • 会計基準変更に伴う一時的損益
  • パンデミック関連の特別損益

これらを取り除くことで、「来期以降も繰り返される、本業の利益」に近い値が得られる。アナリストが Adjusted EPS や Operating EPS と呼んでいる数字も、おおむねこの考え方に基づいている。

継続事業ベース PER の優位性は、次のような場面で発揮される。

  • 大型減損が出た年(GE、IBM、NEC、ソフトバンクグループなど)の評価
  • 事業ポートフォリオを大きく入れ替えている再生途上の企業
  • パンデミックなど、特殊な外部環境による一時的な歪みを取り除きたいとき

個人投資家が決算ニュースを読むときに、「特別損失で赤字に転落、来期は黒字回復見込み」と書いてあれば、トレーリングではなく継続事業ベースでの利益水準を意識して PER を計算するほうが、未来の利益力に近い数字が得られる。

3通りを並べると見える「銘柄の癖」

同じ銘柄について、3通りの PER を並べると、その会社の癖が浮かび上がる。

  • トレーリング > フォワード:今後の利益拡大が織り込まれている(典型的な成長株)
  • トレーリング < フォワード:来期以降の利益縮小が予想されている(シクリカル株のピーク、構造的衰退)
  • トレーリング ≠ 継続事業ベース:特別損益で実績利益が歪んでいる(再生中の銘柄、減損が頻発する銘柄)
  • 継続事業ベース ≒ フォワード:本業の利益力が安定的(ディフェンシブ株、優良消費財)

このうち「トレーリングと継続事業ベースの差」が大きい銘柄は、「会計上の利益のブレ」に振り回されやすいタイプである。投資判断のベースにするなら、継続事業ベースを優先したほうが、長期の利益力に近い形で銘柄を比較できる。

新興国 PER の特殊な癖

新興国の PER は、先進国と比べて次のような癖を持つ。

  1. シクリカル業種(資源、銀行、通信、不動産)の比重が高く、利益のブレが大きい
  2. 会計基準が国によって異なる(IFRS、US GAAP、ローカル基準)
  3. 政府保有比率の高い企業が多く、配当政策が利益と切り離されている場合がある
  4. 為替変動が EPS に直接影響する(外貨建て債務評価損など)
  5. インフレ会計の有無で、実質ベースと名目ベースの差が大きい

新興国の指数 PER(MSCI EM など)は、構造的に先進国より2〜4ポイント低くなる傾向がある。これを「割安」と捉えるか、「リスクプレミアムが正当化される」と捉えるかは、投資家のスタンスによる。少なくとも、「先進国 PER 18倍 vs 新興国 PER 12倍」のような比較を、額面どおり「新興国は40%安い」と読むのは適切ではない。

新興国の個別株を見るときは、トレーリング・フォワード・継続事業ベースに加えて、「現地通貨建てか、ドル建てか」「インフレ調整後か、名目か」も併せてチェックしておきたい。情報源としては、Bloomberg、S&P Capital IQ、現地ブローカーのレポートなどを併用するのが現実的だ。

PER は、もっとも単純で、もっとも誤解されやすい指標である。ニュースで「PER 18倍」と書かれていたら、まず「どの分母を使った PER なのか」を確認する。それだけで、数字の見え方は格段に正確になる。

次回は、PER の弱点を補う長期指標として注目される「シラー PE(CAPE)」を取り上げる。10年間の平均利益で見るバリュエーションが、なぜ長期の株式リターンと強い相関を持つのか、過去140年のデータで見ていきたい。


画像クレジット: Anna Nekrashevich 氏(Pexels)/Pexelsライセンス(商用利用可、帰属表示義務なし)

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