いやー、なんだかんだ現金が一番安心だわ。
キャッシュ・イズ・キングやろ、世の中。
やっぱり現金が正解。
この感覚、よくわかりますよ。
なんたって、キャッシュ・イズ・キングというパワーワードの響きがいい!
そう言って笑い合って、はや 5 年。
同じように大学を出て、同じような給料の会社に勤め、これまた同じような趣味を持っている同期たち。
なのに、定期的に会って話をしていると、どうにも資産の差が、ちょっとずつ開いている ……。
飲み会で使うお金だったり、交通費に腰が引けたり、即決できる金額に差があったり。
5 年で、これなら、これまでと同じようにサラリーマンを続けて、20 年、30 年続いたら、どうなるだろう ……。
まわりの友人が投資で資産を築き、引退を視野にいれているとき。
自分だけお金を持っておらず、いつまでも働かないといけないだなんて。
そんな立場に置かれたとしたら。
わたしは、間違いなく、耐えられない。
キャッシュ・イズ・キングってなんぞや
単純に言葉尻だけを解釈すると、現金は王さま、です。
実際、実感をともなっている、最もらしい言葉に聞こえます。
- カードの支払日にうんと現金があると安心する
- 財布に 10,000 円が入っていると、ちょっと良いものを買ったりする
- 老後のために現金を貯めておくのが正解
逆に、現金がないと不安な気持ちになりがちです。
預金残高が減る一方だと気持ちが落ち込み、自分の本業に集中できなくなります。
人間、未来が好転するかもしれないという希望を持っていなければ、まともな判断を下すことはできないのですから、なおさらです。
だから、キャッシュ・イズ・キング。
現金は王さま。
現金で持ち続けるのが大正解。
投資なんかして、お金を減らすだなんてもってのほかだ!
確かに、明日の食事に事欠くありさまならば、まず初めにやるのは現金をためることでしょう。
ただ、キャッシュ・イズ・キングという言葉を、無邪気に解釈して、投資をしない選択をするのは、間違いです。
なぜ、間違いなのか。
それを理解するためには、キャッシュ・イズ・キングという言葉が正しく使われる文脈を知る必要があります。
経営における意味 ── 松下幸之助のダム式経営
そもそも、キャッシュ・イズ・キングという言葉は、経営畑で使われる言葉のようです。
会社は、現金が尽きれば、ほとんどの場合倒産を意味します。
商品の開発からはじまり、試作に仕入れに、設備投資。
製品が売れてから資金を回収するまでにタイムラグがあるにもかかわらず、土地や建物の支払いをせねばなりません。
なにより、尽くしてくれた従業員への支払いが必要です。
これらのどこかに、支払いの滞りが起きた時点で、その会社は全てを失うことになる ……。
現金がなければ、全てが終わる。現金だけが、生活を守ってくれる。
パナソニックの創業者、松下幸之助氏も、中小企業から大企業への躍進を果たしていたころ、講演で次のような話をしたことがあるそうです。
どれだけ苦しくとも、内部留保に回し、現金を貯めることを考え続けねばなりません、と。
経営は、いつでもいい状態でいられるわけではありません。
1 年に四季があるように、会社の経営にも波があります。その悪い時のために、現金貯めておく。
危ない時に、利益のいくばくかを内部留保として貯めていく。
本当は全て事業に投資する方が儲かることが見えていても、歯を食いしばって、現金として留保しておく。
彼は言います。
資金のダムをもっていないという経営のあり方、私はこれはもう、いけないんと思うんであります。
ちなみに、講演後の質疑応答で、受講者の一人が訪ねたそうです。
ダム式経営ができれば、それは確かに理想です。しかし、現実にそれはできない。その方法を知りたいんだ、と。
これに対する松下幸之助氏の回答。
ダムをつくろうと強く思わんといかんのですなあ。
彼は、創業と同時に造った製品が売れず、次に造った製品も売れず、さらにその次も売れなかった。
創業仲間から辞めるように言われ、出資金も引き上げられていた。
本当に現金がないことに苦しみ、辛酸を舐めた経験。
満足いく結果が続いている時だからこそ、将来への備えを怠るな、という経営経営の神様の知恵からの言葉ですね。
他にも、世界一のお金持ちでるユダヤ人たちが語り継いできたタルムードの中にも、来るべき困難に備えよ、という逸話があります。
(vol.08「7 匹の牛と一貫性の罠」を参照)
将来に備えて、キャッシュを潤沢に蓄えておく。これこそが、キャッシュ・イズ・キングの意味合いです。
なるほど、現金は大事ですね! これからも貯金に励みますね!
そうなれば話は早いんですが、それは間違いです。
この文脈で語られる、キャッシュ・イズ・キングは、あくまでも「リスク管理」なのです。
つまり、自分にはまず、こう問わねばなりません。
わたしは、自分にちょうど良いリスクをとっていますか?
投資では「現金は悪である」
松下幸之助氏の逸話はどこにいったんだ! とお叱りをうけてしまいそうな表題ですね。
でも、投資におけるスタンスは、これが正解です。
現金は、損をしない(ように見える)投資先です。
安心、安全で握っていてはいけません。
現金は、「他人に負けることが運命づけられている」投資です。
一刻も早く、投資を始めてください。
キャッシュ・イズ・キングは投資を始めてしばらく経った方々へ向けての、訓示だからです。
投資を始めると、すぐに理解できます。
現金を持ち続けるのが、すごく難しいことだ、と。
投資を始めた経験のない方は、なにを馬鹿な、と思うでしょう。
逆に、株式投資の経験者には、あるあるだったりします。
だって、株を買ったら儲かるんですよ? 買えるだけ買うのが、一番合理的じゃないですか!
いまのような上昇相場で、暴落を経験したことのない投資家は、ブレーキを知りません。
そして、退場する。会社経営が失敗するが如く、資金を市場に吸い取られて、死ぬ訳です。
わたしも、とんでもない辛酸を舐めました。(そして今なお舐め続けています ……)
危ない時に備えて、現金のいくばくかを内部留保として貯めていく。
本当は全て事業に投資する方が儲かることが見えていても、歯を食いしばって、現金として留保しておく。
すると、暴落に巻き込まれた時、売りか塩漬けにすること以外の戦略をとることが可能になるんです。
- 追加投資する
- 補償金にして空売りを始める
- 株式市場から一時撤退する
アクセルを全開にするのではなく、利益が確保できるようになった次の段階として、同時に守りを働かせる。
この文脈ではじめて、投資におけるキャッシュ・イズ・キングを正しく解釈できるわけです。
どれくらい現金を持てばいいの?
残念ながら、こちらについて明確な解はありません。
- 収入の 1 割を貯蓄しろ、とバビロンの大富豪は言います
- 3 年分の蓄えがなければ国にあらず、と二宮金次郎は言います
- ウォール街の有名投資家、高橋ダンさんは 10〜20% くらいを提唱しています
明確な答えはないんですね。
だから、ここを自分で決めてやる必要があるのです。
ちなみにわたしは、ポートフォリオの約 10% は現金で保つように心がけています。
(現在 7% ですが ……)
暴落を待ってから投資、は本当か?
次に出てくる疑問。
暴落した時に買ったら、損しないんだろう? 暴落を待って始めるよ!
コロナで大暴落した時、どうやら底をうったらしいことを友人に話したときに返ってきた言葉です。
二番底を待って、投資をはじめてみようかなー。
二番底って、いつ来たっけ?
一番大事なのは買いのタイミングを図ることではありません。その瞬間に、自分の現金が市場に置いてあることが大切なんです。
底で買えなかったから、次の底で買おうと発想していた彼は、コロナ対策でじゃぶじゃぶにうるおった金融相場で上昇トレンドを取り逃しています。
今が買い場か、という心配をしている間に、10 年に一回の上昇相場を取り逃したんです。
10 年に一度しかない暴落を待つだなんて、とんでもない。
キャッシュイズキング、とサラリーマンが言っているとモヤっとします。
いま買いですか、という質問をされる度に悲しくなります。
一番大切なのは、株式というアセットにキャッシュを置いているか否かです。
チャンスはそこらじゅうに転がっています。
投資を始めないと、それが見えてこないんですけどね ……。
2021 年某日

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